『児童性愛者』書評
  『児童性愛者』書評    あらすじ    デンマークには「児童性愛愛好者協会」という合法の結社が存在する。    ジャーナリストのヤコブ・ビリングは、潜入取材を行うにあたって、    児童性愛者に関する書物などを読み漁るなどして、ヤコブ・アナセンという別人物に変身した。    協会の会合は、市の助成金によって無料で会場を借りたオープン会合と、    会員の自宅などで開催される閉鎖会合があった。    ヤコブは、そこで同好の士としての信頼を獲得し、数人の会員と個人的に会う約束を取り付けた。    「少女と文通していた」と言うベントは、    少女の裸身が映された大量のネガとフィルムを所持していた。    ベントが油断した隙に盗んだ手紙と、    気を許したベントから借りたネガを手掛かりにして撮影地域を推定したヤコブは、    幸運にも少女を探し当て、コンタクトを取ることに成功した。    彼は、撮影が実父によってなされたこと、娘は心配をかけまいと母に打ち明けなかったが、    ベントにネガとフィルムを提供していたのは、他ならぬ母自身であったことなどを突き止めた。    さらにヤコブは「アジア諸国で少年を買っている」と告白したケルに、    「少女とセックスするにはどうすればいいのか」と嘘の相談を持ち掛け、    少女売春のノウハウなどを聞き出している現場を盗撮した。    ヤコブ他数名は、実際にインドへ渡航し、売春街の実情を調査すると共に、    レイプが行われていたとされるホテルの裏付けを得た。    およそ1年間の準備の末、ようやく放映されたドキュメンタリー番組は大きな反響を呼んだ。    ヤコブは『取材源の秘匿』というジャーナリストの倫理を捨てて、ベントとケルを警察に通報した。    その結果、二人は番組放映直後に逮捕されることとなった。    初めのうちこそ、国民は激しい憎悪を児童性愛者にぶつけ、    政治家は厳しい論調で児童性愛者を断罪したが、    結局、2004年3月になって自発的に閉鎖するまで協会は存続し、    彼らを取り締まるための法整備がドラスティックに進むことはなかった。    一部抜粋    本書で特に印象深かった箇所を抜粋して御紹介します。     インテリぶった理論的考察や、児童性愛者を頭から「変質者」と決めつけて     身の毛のよだつような興味本位の話に仕立て上げたものはたくさんあったものの、     こうした人々の実像に迫るものはほとんどといってよいほどなかった。     児童性愛者と具体的に話をした研究書も少なかった。    ⇒日本もデンマークも、情報量の少なさという点では変わらないみたいですね。     自分の性的指向を秘密にしつつ、他人に迷惑をかけなければ何の問題もないだろ、違うかい?     とにかく子どもだったら誰でもいいっていうわけじゃないだろ?     誰彼なく、子どもを見ただけで激しく熱くはならないだろ?     これが病気だとは思えないね。     でも、ときには自分が考えていることを吐き出すと、少し楽になる。     ぼくは小さな子どもたちに愛を感じるんだ。     子どもは好きだけど、皆が皆に欲望をそそられるわけではない。     大人が性的に興奮すると子どもは怖がるだろうと思う。     それにどれだけ心構えができているかにもよるよね。     それができてなかったら大変だ。     ひどいことになるよね、そうだろ?    ⇒ベントの発言集。     これだけ聞いていると、自分と大して違わないような気がします。     通路の向こうから子どもが二人遊んでいる声が響いてきた。     男の子と女の子だった。     彼らは驚いたように、そして笑ってぼくを見た。     男の子が言った。     「おじさん、幼児変質者?」     「幼児変質者は皆ひげがあるのよ!」     少女が叫んだ。     ぼくは足早に二人の子どもの前を通り過ぎた。     子どもの眼にはきっと、     ベストとセーターを突き抜けてコードや点滅する機器のランプが見えたのだ。    ⇒んなアホな!     デンマーク、恐るべし…。     「ここで皆に手を挙げてもらえばわかるよ。      ここにいる人間の大半は起訴されたことがあるか、      警察から参考人として事情聴取された経験があると思うよ」     「エアリング、ケル、ゲァトゥ、フレディ、俺も…」      手を上げなかったのは、ぼく一人だけだった。    ⇒犯罪に走らず、性欲をコントロールできている人だって、たくさんいるのに…。     楽しむんだよ、ヤコブ。     服を脱いで、一緒にお風呂に入ったり、いろいろしてもいい。     できる範囲で楽しむんだ。     眼で犯すんだ。     君がよっぽど露骨でない限り、彼女たちには分からないよ。     だけど自制するんだ。     よく言われるように、手はつけないことだよ。    ⇒協会コンサルタント、スヴェンによる「視姦のススメ」。     どうやらケルが言いたいのは、子どもの側から、     自分もセックスをしたいという自発的な働きかけ≠ェあることが非常に重要だということらしい。    ⇒小遣い稼ぎのための売春ならいざ知らず、生活苦に付け込んだ売春は許されないことです。     少女に対して常に受身でいることがロリコンの鉄則。     時間をかけて互いの好意を確認したあと、少女側からセックスの申し出があった場合ならば、     セックスも選択肢に含めて構わないだろうと思いますが、     その場合も、少女の身体的負担への配慮や、     恋愛感情が一過性のものでないかの吟味は十分になされなければいけません。     「新入り」が性犯罪で判決を受けたらしいと思うと、力のある囚人は、     看守に判決のコピーを持って来させるのだ。     刑務所の囚人でさえ、この類の犯罪を好まないということは周知の事実だった。     刑務所長は、刑務所内で性犯罪のもつ性格から虐待されている囚人がいることは知っていた。     独房に煮えたぎったオイルがぶちこまれたり、肛門にほうきの柄を突っ込まれたり、     真っ赤に熱せられた料理用プレートの上に手を置かされたり、     朝のシャワーの際、石鹸でベタベタにした床の上を滑らされたり、といった類のことだ。     こんなことが起きるときには、どういうわけか看守は決してその場にいない。     立場の弱い囚人、性犯罪者は、最後には自発的に隔離されることを選んだ。     年少者に対する性犯罪での収監者の中には、二年以上も自発的に隔離されていた例があった。    ⇒同情を禁じ得ません…。     いいわ、どうでも。     私の人生は、いつも私の気持ちなどおかまいなしに通り過ぎて行ってしまったのよ。     私の人生は、私の意志に反して奪われたのよ。     何かについて『どうか?』なんて聞かれたことは一度もなかったわ。     私の父は、私の中から誠実さも自尊心も、人を信じることも奪ったのよ。     私は、何も誰も信じない。     どうでもいいの。     何もかも、どうでもいい。     私の人生なんてもう、どうだっていいの。     いつもそうだった。     私の父にとっての人生もそんなものだった。     だから彼は私の中にそういう気持を植えつけたのよ。     この気持は日毎に大きくなって来るのよ。    ⇒少女時代、実父(故人)に性的虐待を受け続けた女性の嘆き。     言葉が出ません…。     ヘンリックがロンリー・プラネットガイドのムンバイの部分を読み上げた。     「この街の住民の四パーセント、売春婦の七割以上がHIVに感染している」と、     彼は乾いた声で読んだ。     インドに来る前にぼくが読んだ本にも、     「売春婦の二十五パーセントは十八歳以下で、      性産業や劣悪な条件での労働にも広範囲に子どもが従事させられていることは周知の事実だ」     と書かれていた。    ⇒経済成長著しい『BRICs』の一員でも、治安はまだまだですね。     隅の、取っ手のついた網籠の中の紫の布にくるまれた新生児が泣き始めた。     女性は、ぼくたちと赤ん坊から出てくる音以外、何一つ眼に入らないという様子で、     取っ手をつかんで、籠をゆすってあやした。     他の女性たちは、外の雨の中に出て行き、布を閉じた。     隣の小屋から射精寸前の男の声が聞こえた。     女性はキムに泣きついた。     知る限りの英語で、子どもに食べ物がないこと、彼には人生で一番の体験をさせると言った。     「アイ・アム・グッド。四十ルピーズ」     階段を昇って行くと、それはあった。     小さな房のついた長い通路。     厚い鉄格子があり、小さな高さ一メートルにも満たないハッチには、     重い南京錠がかかっていた。     男の子もいれば、女の子もいた。     一番年下の子は四、五歳くらい。     最年長でもせいぜい十五歳だった。     痩せていて、尿と便の臭いがした。     殴られた傷を化膿させているような子が何人もいた。     多くの子は感染症にかかり、麻薬浸けにもされているようだった。     事の最中のところには、カーテンが引かれていた。     長く、抑えたすすり泣きが、閉じられた檻から漏れていた。     中を覗ける所では、動物よりもひどい扱いを受けている子どもの姿が見えた。    ⇒売春街の実態。     正直言って、怖いです。     大金積まれても、こんな所でセックスなんてしたくありません。     でも、消滅しないということは、これがビジネスとして成立しているんですよね…。     良心の呵責は感じていなかった、と彼は言った。     そうしなければ、とても生きていけない。     ケルやぼくのような金持ちの観光客に、     彼の言うところの「サービス」をすることは本を買う唯一の方法だった。     その意味で、ケルやぼく自身のような人間は、     他の手段では近づくことさえできないものを与えてくれる手がかりだと     彼が感じているということは分かった。     だが、目の前の少年にそう言われても、ぼくにはどうにも納得できなかった。    ⇒甘やかされて育った日本人には、想像すら困難な世界ですね。     御先祖様、ありがとう。     日本人に生まれて良かった…。   以上!