人間の闇に潜む黒い欲望
  人間の闇に潜む黒い欲望   最近、若者による残虐非道な凶悪犯罪が乱発している。   心の専門家達は、彼らがそのような愚考に走った原因が、   生まれ育った家庭環境や過激な表現で溢れるテレビゲームなどにあると主張している。   確かに、それらが凶行のきっかけになったことは事実だろう。   しかし、誰かを殺したい、誰かを犯したいなどの欲望は、   人間なら誰しも持っているのではないかと私は思う。   私の中にも、殺人欲求・破壊欲求・レイプ欲求が潜んでいる。   今でも、それらは私の心の中で絶えず再生産されているが、より多感だった中学・高校時代は、   今以上に直情的かつ激情的なものであったような気がする。   それらは私の理性の殻を突き破ろうと、私の内から常に大きな圧力を加えていた。   これらの黒い欲望の特徴的な所として、ほんのささいな出来事を足掛かりにして容易に生まれることと、   実際には、無差別かつ衝動的に生まれるものではあるが、結果的に友人・知人・家族を   対象とすることが非常に多いことが挙げられる。   私は幼時から生活の一部として鍛えてきた、空想力・妄想力を駆使して、   仲の良い友人や家族を様々なシチュエーションに据えて、何度も何度も殺し続けたり、   周囲にある物を「叩き付ける」「切り裂く」「殴る」「蹴飛ばす」などして破壊したり、   すれ違う女性や目に入った女性をあの手この手で犯し続けたりしていた。   しかし、これらはあくまで心の内で繰り広げられるだけで、   当然、私は現実に事を起こしたことは一度も無い。   それは、私が空想や妄想を自在にコントロールできるからである。   頭の中に描いたこれらの愚かしい考えを、深く顧みることなく   実行してしまう青少年とは、この点で大きく異なる。   「彼らはゲームやテレビの影響によって、現実と虚構の区別がつかなくなったために、   極悪犯罪を全く罪悪感を感じずに遣って退けてしまう」とよく言われているが、   私ならこの分析の論拠を、「彼らが世に満ち溢れた虚構の渦に受動的に巻き込まれた結果、   自分の中から生まれた黒い欲望に支配されてしまったために」と言い直すであろう。   私は物心つく頃から空想や妄想に明け暮れていたが、それらは決してテレビやゲームを   きっかけとしたものではなく、周囲と自分の置かれた状況を観察した上で、自分の利益になるよう   意図的に創造した、能動的なものであり、犯罪者達のそれとは全く性質を異とするものであった。   私が彼らのようにならない要因は、ただこれ一点のみなのである。   だが、私にも犯罪の温床となる妄想癖がある以上、永遠に問題行動を起こさないという保証は無い。   現実に自分の尊厳を踏み躙る程の侮辱や苦痛を受けた場合には、   何の躊躇いも無く犯罪に手を染めるかもしれない。   私は犯罪者予備軍である。   私はこのことを常に意識して生活している。   世界の悪人達が、全員妄想癖を持っているわけではないことから容易に分かることだが、   人は誰しも犯罪者になる可能性がある。   しかしながら、このことを切迫して感じている者は、ほとんどいないように思う。   先にも述べたが、たとえ自覚していなくとも、人は皆心の内に黒い欲望を抱えている。   そうでなければ、犯罪がこれほど世の中に蔓延するはずがないからだ。   それなのに、人はその事実をなかなか認めようとはしない。   認めてしまうと、一般人と犯罪者が根底では同じであることさえも、認めることにつながるからだ。   このような頑固者達には、犯罪者も自分と同じ人間であるという、   基本的で自明な考えが欠落しているのだ。   私は以前これとほぼ同内容の文章を、高校時代の学級日誌に書いたが、   それを読んだ学生,教師の反応は、私の期待を大きく裏切った。   中には、「君が人殺しをしたら、この日誌がマスコミに大々的に取り上げられるな」   などと、茶化す者もいた。   私が冷ややかな批判を浴びせられることを覚悟して、敢えてこのテーマを選んだのは、   読んだ人に、自分の内部に潜む邪悪性を認識し、それと真摯に向き合うことで、   自分を精神的により成長させるための糧としてもらいたかったからであった。   しかし、読者の反応を見る限り、私の意向を理解できた者は、一人もいなかったのではないかと思う。   私はもっと多くの人が、このテーマについて真剣に考えるべきだと思う。